破産と離婚について
1 「破産するので離婚してきました。」
会社の経営がうまくいかず、リスケや法的処理を行う経営者の方と接していると、「最近離婚しまして。」とおっしゃる方がおられます。
会社の経営に苦労していると、家族に不義理をしてしまうことも多くなりますし、役員報酬を後回しにするなど、金銭的にも辛い状況になることも多いため、どうしても配偶者の方との関係がうまくいかなくなり、離婚に至ることも多いと言えます。
これは、家族との愛情が薄れたり、夫婦仲がうまくいかなくなって、本当に心が離れて離婚する場合です。
一方、そのように夫婦としての愛情がなくなったわけではないのに、離婚するケースもあります。
破産直前の打ち合わせの中で、「離婚した方が良いでしょうか。」といった相談を受けることもありますし、「破産するので、離婚してきました。」とおっしゃる方もいらっしゃいます。
相談を受けた私としては、「え?何で?」といった反応になりますが、「家族に迷惑がかかるので・・・」とおっしゃるのです。
2 破産が家族にかける「迷惑」とは
「家族に迷惑がかかる」とおっしゃる相談者の方に、具体的にどのような迷惑がかかるのかを聞いても、「わからない。」と言われます。
「破産」という制度の漠然とした印象として、自宅まで債権者が追いかけてきたり、家族にまで問い詰めたりして、危害が及ぶという危険性をイメージされておられるのだと思います。
次に考えられるのは、配偶者や家族の方の固有の財産が取られてしまうのではないかという恐れでしょうか。
また、近所の方から後ろ指をさされたり、配偶者の実家や知人から離婚を勧められることもあるかもしれません。
しかしながら、本当は夫婦仲が良いのに離婚しなければならないような事情が本当にあるのでしょうか。
まず、家族に危害が及ぶリスクがあるという点ですが、破産のための事業停止の当日や翌日の混乱の中で、ごくまれに債権者の一部が代表者の自宅を訪問してくる可能性もありますが、ほとんど大きなトラブルになることはありません。
仮に、一部の債権者との間で何らかのトラブルが生じる可能性があるとすれば、事前に弁護士との相談の中で対応方法について協議することもできます。
場合によっては、数日間だけ、ご家族が別の場所に退避しておくこともできるのです。
事業停止から数日が経過すれば、混乱も収まりますので、家族に迷惑が掛かる可能性は大幅に低下します。
次に、配偶者や家族名義の財産はどうでしょうか。
これにも破産の影響が及ぶことはありません。
ご家族自身が連帯保証人になっていれば、その効果として支払義務があることは当然ですが、「夫婦だから」「家族だから」といって、別の家族の債務の返済義務があるということはないのです。
知り合いの目を気にするという点はいかがでしょうか。
これは、ケースバイケースで、人間関係によっても状況が異なるとしか言いようがありません。
まず、「破産したことを親戚や近所の方に知られるのか。」という点をよく質問されるので、ここで述べておきます。
ある程度の規模の会社であれば新聞報道されることもありますし、帝国データバンクや商工リサーチなどの企業情報から知られることもあります。
また、破産手続開始決定を受けたことは官報に掲載されますので、あえて調べようという方がいれば知られてしまう可能性はあると言えます。
その他、考えられるケースとしては、引越しや自宅の売却などから知られるという場合です。
代表者個人も破産手続を行う場合、自宅も破産財産として処分の対象となる可能性が高いため、引越ししなければならないことはあります。
こうしたことから、知人に知られてしまうということはあり得ます。
ただ、このようにして破産の事実を知った方の意見や、場合によっては「陰口」を、どこまで重視するかは考えものです。
周囲の方には、それぞれの意見があるとは思いますが、その反応を気にしすぎていてはキリがありません。
「家族に及ぶ迷惑」という点は、事前に漠然と想像していたよりもずっと小さいものであったのではないでしょうか。
それを正確に把握した上で検討する必要があると思います。
3 私が伝えたいこと
ケースによって様々であることは大前提ですが、私の個人的意見としては、もし破産という場面に至っても、家族との愛情があるならば、家族で助け合ってその困難を乗り越えていく方が望ましいのではないかと思っています。
破産などは、経営者として精神的な負担がかなりありますし、経済的にも厳しいことが多いと言えます。
そのような苦難こそ、家族が助け合うことで乗り越えられる場合もあるのです。
離婚して、住居を別にして生活費も二重に掛かるということになると、その費用負担も大きいという問題もあります。
弁護士に相談して方針が決まってからは、むしろ経営者の精神的負担は緩和されると思いますし、経営に行き詰まっていた時期に比べますと、再就職後の給料はすべて生活費に回すことができますので、少しずつ、生活も再建できてくると思います。
そのような経済合理性だけではなく、家族がいるということが、経営者の方の心を支えていくことになるのです。
もし、先ほど述べたような漠然とした不安のみで離婚を検討している方がおられたら、私は反対します。
4 破産直前の離婚のリスクに注意
もう一点、破産直前の離婚で注意する点があります。
一般的に、離婚時には、夫婦間の財産分与、子供がいる場合には親権者の指定と、養育費の取り決めなどを行うことになります。場合によっては慰謝料の問題も生じます。
これは、通常の場合ですと、離婚に伴って、当事者間の意思で決定される内容ですので、離婚する二人が話し合えば、財産分与をどのような形で定めることもできます。
しかしながら、破産という場面では、そう単純な話ではありません。
経営者個人の財産も、破産手続の中では、債権者の平等弁済の引き当てとなる「破産財団」を構成することになるからです。
過去の悪質なケースでは、財産分与や慰謝料が破産直前の財産隠匿の手段として使われたことがあるのです。
したがって、破産直前に破産者の財産を移動した場合は、後に裁判所から選任された破産管財人によって厳しくチェックされます。
状況に照らして不自然な財産分与があったとすれば、管財人から指摘されることもありますし、財産隠しのために離婚を偽装したと認められれば、犯罪になることもあるのです。
先ほど申し上げたとおり、破産直前の離婚には、本当に心が離れたために至るものもありますが、そのような場合でも、離婚による財産分与や慰謝料の授受を行う場合、債権者の利益を損なうような不相当なやり取りであったか否かが後で問題になるのです。
5 おわりに
「破産と離婚」というテーマで述べてまいりましたが、破産などの手続にあたっては、離婚という全く別の行為も問題となることもあり、様々な観点から慎重に検討する必要があることをご理解いただけたのではないかと思います。
是非、弁護士にご相談ください。