企業が倒産しても、経営者が破産しなくてもよい場合があります
経営者の再起のために~経営者保証ガイドラインのすすめ~

1.企業の破産と経営者の個人保証

中小企業が金融機関から融資を受ける場合、経営者の個人保証(以下「経営者保証」といいます。)が求められるケースが多くみられます。

企業の資金繰りが悪化して、破産をせざるを得ない…
でも、企業の融資については、私が個人保証をしている…
私まで破産して、これまで住んできた自宅まで失ってしまうと、これからの生活や老後も心配だ…

実際に、当事務所にも、そのような相談で来られる方も多くいらっしゃいます。

もちろん、企業のみならず経営者個人についても破産手続等の法的手続をとることにより、ゼロから新たな第一歩を踏み出す方法も考えられます。
しかしながら、経営者保証に関するガイドライン(以下「経営者保証ガイドライン」といいます。)の制度を利用することができれば、
経営者個人の自宅などの資産を一定程度保護しながら、経営者の皆様の再生を図っていくことができる可能性があります。

2.経営者保証ガイドラインとは?

経営者保証ガイドラインは、経営者保証について、

① 法人と個人が明確に分離されている場合などに、経営者保証を求めないこと
② 多額の個人保証を行っていても、早期に事業再生や廃業を決断した際に一定の生活費等(従来の自由財産99万円に加え、年齢等に応じて約100~360万円)を残すことや、「華美でない」自宅に住み続けられることなどを検討すること
③ 保証債務の履行時に返済しきれない債務残額は原則として免除すること

などを定めることにより、経営者保証の弊害を解消し、経営者による思い切った事業展開や、早期事業再生等を応援するためのガイドラインです。

法的拘束力はないものの、銀行など金融機関は、経営者保証ガイドラインの趣旨を踏まえて、このガイドラインを真摯に活用していくことが求められていますので、
銀行などの金融機関からの借入れを連帯保証している経営者の皆様には、この経営者保証ガイドラインの積極的な活用について検討されることをお勧めしています。

3.経営者保証の解消にあたっての経営者保証ガイドランの活用

経営者が企業の債務を個人保証していなければ、経営者は思い切った事業展開ができ、また、万一、経営が窮地に陥ってしまった場合であっても早い段階で事業再生を決断することができます。

そして、経営保証ガイドランが適用されれば、経営者保証によらず、融資を受けることができる可能性があります。
具体的には3つの条件を満たすことで、経営者保証ガイドラインが適用される可能性があります。

① 法人個人の一体性の解消
② 財務基盤の強化
③ 財務状況の適時適切な情報開示

これらの条件を満たしていくにあたっては、弁護士などの外部専門家において企業と経営者の資産・経理の分離についての検証を実施し、金融機関に対して開示していくことが求められます。

また、企業に対する情報開示にあたっても、正確かつ丁寧に信頼性の高い情報を開示・説明していくためには、弁護士の助言や協力が必要となります。
企業をより発展させるためにも、金融機関に対して、経営者保証を求めないように積極的に働きかけていきましょう。

4.企業が事業再生や債務整理を行う場合の経営保証ガイドランの活用

(1) 企業の事業再生や債務整理と経営者保証

これまでは、経営者保証をしている企業の経営が窮地に陥って破産してしまう場合、経営者個人についても破産し、自宅等の資産を失うことにならざるを得ませんでした。

しかしながら、経営者保証ガイドラインに基づいて保証債務を整理することにより、経営者の個人資産を一定の範囲で残すことが可能となりました。

経営者保証ガイドラインにより必要な手続を踏んだ場合、保証人たる経営者は債権者に対して、残すことができる財産(「残存財産」といいます。)を除くすべての資産を処分・換価し、
得られた金銭でそれぞれの債権者の債権額の割合に応じて弁済を行うことによって、その余の保証債務について免除を受けることができます。

これにより、経営者個人の破産を避けることができるうえ、破産をしたときよりも多くの財産を残すことができる可能性があります。
さらに、経営者保証ガイドラインを適用し、債務の免除を受けた場合には、いわゆるブラックリストにも登録されません。

(2) 対象となる経営者

経営者保証ガイドラインに基づく保証債務の整理の対象となり得る経営者の条件は、以下のとおりです。

① 法人の法的整理手続又は準則型私的整理手続(中小企業再生支援協議会による再生支援スキーム、事業再生ADR、私的整理ガイドライン、特定調停等)の申立てを同時に行うか、係属中若しくは終結していること
② 金融機関において、法人の債務及び保証債務の破産手続による配当よりも多くの回収を得られる見込みがあるなど、経済的な合理性が期待されること
③ 経営者に破産法に定める免責不許可事由が生じていないこと

経営者保証ガイドラインを利用したいと考える経営者の皆様は、まずは弁護士などの支援専門家にご相談いただき、そのうえで、すべての金融機関に対して一時停止(返済猶予)の要請を行い、支援専門家の協力のもとで、弁済計画を策定していくことになります。

(3) 残余財産について

以上の手続を経ることにより、一定の経済的合理性が認められる場合には、以下のような資産を経営者の手元に残すことができる可能性があります。

① 一定期間の生活費に相当する現預金

生活状況にもよりますが、破産手続において自由財産として認められる99万円に加え、年齢等に応じて100万円から360万円を残すことができます。

② 華美でない自宅

自宅を残すことができるというが、経営者保証ガイドラインに基づいて 保証債務を整理する際の大きなメリットです。
なお、華美か否かはその都度判断していくことになりますが、自己破産をした場合よりも多い金額を返済しなければならないというルール(「清算価値保証の原則」といいます。)があり、高額で売却できる物件については、経営者保証ガイドラインを利用した場合であっても、売却せざるを得なくなることがありますので、ご留意いただく必要があります。

③ 主たる債務者の実質的な事業継続に最低限必要な資産

会社が事業継続をする場合には、保証人が法人に対してその資産を譲渡して法人の資産にすることにより、返済原資から除外することができる可能性があります。

④ その他の資産

その他、生命保険の解約返戻金、敷金、保証金、電話加入権、自家用車その他資産についても、残すことができる可能性があります。

5.できるだけ早期にご相談を

このように、金融機関に対して経営者保証を求めないように働きかけていくにあたっては、弁護士などの外部専門家の助言や協力が必要となります。

さらに、経営者保証ガイドラインに基づいて保証債務の整理を行う場合には、支援専門家としての弁護士の助言と協力が不可欠となります。

この経営者保証ガイドラインを活用していくにあたっての最も重要なポイントは、早期に対応を始め、早期に完了させることです。
対応が遅れれば遅れるほど、法人が経済的に追い込まれていくとともに、経営者保証の範囲も広がってしまい、経営者保証ガイドラインを活用していくことがどんどん難しくなっていきます。

事業の再生を具体的に検討する前の段階であっても、専門家に相談してみることは、決して不利益にはなりません。
それどころか、早期に相談することにより、選択できる手段が増え、結果として大きなメリットを得ることができる可能性があります。

まずは、できるだけ早く、信頼できる弁護士に、あなたの会社の状況を伝え、どのような方策がとることができるのか、
さらに、経営者保証ガイドラインを利用する場合、どのような準備をしていかなければならないのかを相談してみるのが良いと思います。

今後の法人の事業のためにも、そして何よりも経営者の皆様の将来のためにも、できるだけ早い段階で相談をしていただくことをお勧めしています。

このページのトップへ移動します