戦略的に破産を申し立てる具体的方法

1 はじめに

この項では、会社の経営が悪化し、資金繰りに窮し、破産手続を決意した場合に検討すべきこと、行うべきことを説明します。

破産というと、会社にとって、万策が尽き、どうしようもなくなった後に行う手続というイメージがありますが、その申立てにあたっては注意すべきことがたくさんあります。

同じケースでも、全く何も考えずに闇雲に破産申立てに至るのと、債権者の方々や取引先、会社の従業員などの利害関係者の状況も十分に考慮して手続に至るのとでは、その影響が全く異なります。

もちろん、事前に準備できることには限りがありますが、少しでも迷惑をかける程度を抑えることが可能となります。

そのためには、まずは、破産についての正確な知識を持っておく必要があります。

2 破産手続とはどのような手続か

法人破産は、会社の経営に行き詰まり、債務の弁済が行えなくなった時に、裁判所に申し立てて行う手続です。

遅くとも申立時には、事業を停止し、債務の支払いをストップし、従業員を全員解雇することになります。

通常、会社の事業は、申立人代理人となる弁護士が受任通知を出した時点で停止することになり、同じ日に従業員への解雇通知や、事業所の閉鎖を行うことになります。

その上で、申立人代理人は、資料を整え、裁判所に破産申立てを行うのです。
(密行型の破産の場合は、事前に受任通知を発送せずに、裁判所に申し立てる場合もあります。)

通常の場合、申立人代理人弁護士が受任通知を発送する日が、会社の事業を停止し、関係者に「破産する」ことをオープンにする「Xデー」となります。

受任通知を発送した段階で、債権者からの連絡などは、すべて代理人弁護士にいくことになりますので、債権者から会社代表者などへの直接の連絡は停止します。

Xデーの後、1か月から数か月後に、裁判所への破産申立てを行うことになります。

裁判所において、会社が破産状態にあることが認められれば、破産手続開始決定がなされます。

同時に、破産管財人が選任され、会社の資産を管理し、調査した上で、売却できる物は売却(換価)していくことになります。

概ね破産手続開始決定後3か月くらいで第1回の債権者集会が開催され、その後は事案に応じて集会が開催されます。

破産管財人の財産調査の結果、債権者に対する配当が可能な場合には、債権者に配当されることとなりますが、配当ができない場合は、配当手続きなしで破産手続が終了することとなります。

法人破産と同時に、代表者の個人破産の申立てもなされることが多いですが、その破産手続も法人破産と同時に進行していきます。

法人と異なるのは、個人の場合は、「免責」という手続があることです。

法人の場合、破産手続が終了すれば、法人格が消滅してしまうのですが、個人の場合は、破産手続終了後も人生は続いていきます。
そのため、「免責」といって、破産債権の支払いを免除する決定がなされるのです。

3 Xデーまでになすべきこと

破産を決意したといっても、経営者の方は法律の専門家ではなく、初めての経験だと思いますので、破産の具体的な手続の流れや、なすべきことについて、十分な知識はないと思います。

そのため、事前に、申立代理人となるべき弁護士と十分に相談することが必要です。

もっとも重要な点は、「いつをXデーとするか。」です。

前述のとおり、「Xデー」は、会社の事業を停止し、関係者に破産することを明らかにする日になります。

前日まで事業を行っていた会社が、Xデーを境にすべての事業を停止することになるのです。

従業員の協力が得られる場合に限られますが、完成できる仕事はXデーまでに完成できれば、関係者に迷惑をかける度合いが少なくなりますし、完成した仕事の請求という面を考えても、後の破産手続にとって良い場合もあります。

また、資金繰りの面でも、破産の申立てに必要な予納金、弁護士報酬が残存している時期でなければ、そもそも破産申立てができない(予納金が支払えなければ受け付けてもらえない。)こともあるのです。

さらに、Xデーには、従業員の解雇も行うことになります。

従業員の解雇には、通常、解雇日までの給料と、予告手当(過去3か月の平均賃金の1か月分)、退職金を支払う必要があります。それらの資金的な手当も考えておく必要があります。

このような事情をすべて考慮し、「Xデー」をいつにするかを弁護士と相談する必要があります。

弁護士とともに、会社の資産状況や、資金繰り(支払いと入金)、業務の状況などを一つ一つ見ていくことにより、「Xデー」とすべき日が見えてくると思います。

事業を停止し、弁護士が受任通知を発送するXデーが決まったら、それまでになすべきことを決定していきます。
これは、会社によってそれぞれ異なりますが、例えば、他の取締役や従業員に対して事前にどの程度説明するか、とか、Xデーに行うべきこと(財産の保全措置など)を相談していくことになります。

Xデーまでに、取引先に破産を予定していることが広まり、予定していた段取りができなくなったり、時には「取り付け騒ぎ」のような事態になり、収拾がつかなくなることもあり得ます。

できるだけ、そのような混乱を回避することが、破産する会社関係者だけでなく、債権者のためにも必要なのです。

4 Xデー以降、破産申立てまでになすべきこと

Xデーに、事業を停止し事業所を閉鎖すると同時に、弁護士が受任の通知を債権者や取引先に発送することにより、ある程度の混乱を回避することができます。

その後の債権者等との対応は、すべて弁護士が行うことになります。

Xデーと前後して、裁判所に提出するための申立書や必要書類の作成を行うことになります(破産申立てを行う旨の取締役会の開催は、Xデーの前に行います。)。

負債については、弁護士から各債権者に受任通知を行うとともに債権届出書の提出を受け、負債額を確認していくことになります。

また、財産については、保全し、後に破産管財人に引き継ぐことになりますが、緊急性がある商品の処分などは、申立代理人において行うこともあります(このような申立て段階での換価処分は、後に詐害行為として否認される可能性もありますので、注意して行う必要があります。)。

預金などは、相殺や差し押さえを回避するため、Xデーの前に引き出しておく場合もありますし、売掛金も、元の口座への支払いを防ぐため、申立代理人の預り金口座への入金を依頼するなどして、適切に回収し、破産管財人に引き継ぐことになります。

仕掛かり中の仕事などで、迅速に処理することで完成する方が利益が見込める場合は、これを完成する場合もあります。これは、事業停止後の例外的な措置と言えるでしょう。

このような処理を適切に行うことで、会社の資産をできるかぎり維持し、保全した状態で破産手続に進むことができるのです。

5 戦略的に破産申立てを行うということ

「どうせ破産するんだから、誰にどんな迷惑をかけても構わない。」

そう考える方もいらっしゃると思います。

しかし、Xデーの選定や、その前後の処理を疎かにして、会社の資産がズタズタになった状態では、従業員らの給料や退職金も支払えなくなることもあり得ます。適切な処理を行ったかどうかが、従業員の方々の後の生活において、大きな違いが出てくるのです。

債権者にとっても同様です。

たしかに、破産手続がなされれば、自らの債権については十分な弁済が受けられないことになるでしょう。

しかし、適切な破産手続によって平等な弁済がなされるのであれば、それでも納得することができるはずです。

それでは、取り付け騒ぎなどが起こったり、一部の債権者だけが得をするような事態が生じた場合に、他の債権者は、その会社の破産に納得がいくでしょうか。

破産に至ったとはいえ、その処理をきちんと行うことが、債権者に誠意を尽くすことになるのではないでしょうか。

また、そのように適切な処理を行ったということは、経営者自身の再起においても、必ず影響があります。

会社が破産しても、その経営者の方の人生は続いていきますし、会社を通じた人脈が後に生きてくる場合もきっとあります。

私が担当したケースでも、破産会社の代表者だった方が、その債権者である取引先に再就職したケースもあるのです。

事前に、十分に弁護士と相談して適切な処理を行うことこそが、結果的に、会社に関わるすべての方にとって最良の結果となると思います。

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